vol.1085 「大切な落し物」

vol.1085 「大切な落し物」 2012.11.11
      さざん亭柳井店  岡本 裕子
 10月末の夜8時半頃、アルバイトの黒田さんが「岡本さん、店のまわりにこんな紙がいっぱい落ちています。どうしましょう。」と紙をみせてくれました。私はあわてて外に出ると、店の入り口から道路100mにかけて紙が散乱していました。パートの沖原さん、厨房の堀田さんが駆けつけ、黒田さんと私の4人で道路に散乱している紙を拾いました。ノートとファイルがあり散らかっていた紙はざっと100枚近くありました。
 その内容を見るとすべてケーキのレシピでした。落とし主が手書きされたもので、絵付きで事細かく書いてありました。一目で大切なものだとわかりました。落とし主もきっと困っているだろうと思い、みんなで紙やノートに落とし主の名前が書いてないか探しましたが、あいにく書いてありませんでした。
 手がかりはレシピの隅に雑誌のコピーが貼ってあり3月掲載デザートのケーキのレシピが載っていました。ネットで調べると広島のタウン情報誌であることがわかり、この雑誌社の取材したパティシエさんだろうと推測で思いました。次の日の朝一番に雑誌社に連絡しました。“これで解決!”と思っていましたが、そのような取材をしたことはありませんという返答で振り出しに戻りました。
 「いき詰まったら現場へ戻れ」よく刑事ドラマで聞く言葉を思い出し、もう一度雑誌のコピーが載っていた紙とにらめっこして手がかりを探しました。その雑誌のコピーの中にもう1冊雑誌が2㎝くらいの枠であり、その中に小さく「備後」と書いてありました。その雑誌社は広島だけでなく東京や大阪・備後・沖縄など支社が10社ありました。早速その支社に電話しました。最初は説明しても理解されなかったのですが、コピーを送り、ねばり強く説明し状況を伝え探し出してもらいました。やはり私の目に狂いは無くビンゴでした。11月3日に取りに来られました。とても喜んでくださりお礼にお菓子の詰め合わせを頂きみんなで食べました。
 最初は異様な光景にビックリしましたが、探偵みたいに落とし主を探すのが楽しかったです。この方が考えたデザートを食べて見たかったです。すごく凝っていて見た目も可愛くめちゃめちゃおいしそうでした。入社して11年ですがこんなことってあるんですね。なかなか面白い出来事でした。