vol.1110 「おじいちゃんの大好きな鮨」

vol.1110 「おじいちゃんの大好きな鮨」
のん太鮨山口店 武田 真吾
常連のYさんの娘さんがお鮨のお持ち帰りに来られました。この時点で少し違和感があったので「今日はお持ち帰りですか?」と声をかけました。すると「おじいちゃんが急に入院になって、どうしても『のん太鮨』の鮨が食べたいって言うから…」と言われて、嬉しい反面“おじいちゃんは大丈夫なのかな?”と心配になりました。
娘さんに「おじいちゃん大丈夫なんですか?」と思い切って聞いてみました。すると娘さんの表情が少し暗くなったのに気付いたので、これ以上は聞けず「早く退院できたら良いですね!」と言いました。
私がおじいちゃんの好みやシャリの大きさなどを把握しているのを娘さんはご存知なので、私に「おじいちゃんの好きなお鮨をお願い!」と頼まれました。
2週間後無事に退院したおじいちゃんとそのご家族が来店されました。おじいちゃんが「こないだは有難うね。お鮨本当に美味しかった。本当に嬉しかったよ。」 と私の手を力いっぱい掴んでおっしゃいました。私は嬉しい気持ちと、やつれたおじいちゃんを見て涙が出ました。
それから2回おじいちゃんは来店され、完全復活したかのような元気な姿を見て私は安心しました。しかしその後1ヶ月もおじいちゃんの来店が無く気になっていました。
6月19日の木曜日に、おじいちゃんの娘さんと知り合いだったパートの岡本さんに連絡があり「リンカーンに乗っているおにいちゃんは今日仕事?おじいちゃんの体調が良くなくて、のん太鮨のお兄ちゃんの鮨が食べたいって言っていたけど、急に具合が悪くなって食べさせてあげられなくなったんよ。だからおじいちゃんに会いに来てくれん?」と。朝一でバタバタしていたので、岡本さんが「この時間は出られないみたいよ。」と伝えてくれました。
その日はずっとおじいちゃんの事が気になってどうしようもなかったので、元アルバイトの井上さんもご近所で、昔からの知り合いだったのを思い出して、営業後に井上さんに連絡を取ってもらいました。でも連絡が取れたのは2日後で、お話を聞いたら「前日の夕方におじいちゃんは亡くなったよ。」と娘さんに言われ言葉も出ませんでした。本当にショックで“あの時少しでも時間を作って会いに行けばよかった”と後悔するばかりでした。
6月22日の夕方に、お通夜に出すお鮨の予約に来られたご家族とレジで少しお話をすると「今日、仕事が終わってからおじいちゃんの顔を見に来てくれないですか?来てくれたら絶対おじいちゃん喜ぶから…」と言っていただきました。「本当に私が伺っても良いんですか?」と言うと、ご家族の皆さんが「おじいちゃんも絶対会いたがっているから、是非、来てよ。」と言ってくださったので、「ありがとうございます。必ず伺います。」と言いながら私は涙をグッと堪えました。
仕事が終わっておじいちゃんの所に行き、お顔をしっかり見て、ご家族と20分位思い出話をして会場を出ました。会場の出口まで娘さんと息子さんが見送ってくださり「今日は来てくれてありがとう。おじいちゃんとは行けないけど、これからも家族で武田君に会いに行くからね。たまにはおじいちゃんの事思い出してくれたらおじいちゃん喜ぶよ。」と言っていただきました。
本当にこの仕事に就けて良かったと心から思います。これからもお客様と心の通った出会いを大切にして、自分の仕事に誇りを持って取り組んで行きます。
2014.6.22