vol.1082 「思い出の場所」2012.02.16
さざん亭柳井店 岡本裕子
2月8日水曜日昼ごろ、上得意様のK様が息子さんご夫婦4人でいらっしゃいました。いつも来られるおじいちゃんの姿が見えなかったので「あれ?今日はおじいちゃん来られないのですか?」と尋ねると、ご家族の方が悲しい顔をされ「実は昨日急に亡くなったの。明日お葬式なの。」と言われました。“えっ!あんなに元気なおじいちゃんだったのに信じられない・・・”とショックでした。
Kおじいちゃんとの出会いは、私が柳井店に転勤して間もない頃でした。帽子をかぶった背の高いおじいちゃんがご家族と一緒に来られていて、パートの沖原さんから「あの方はK様と言って常連様なの。おじいちゃんはいつも決まって『寿司生そば御膳』を食べるの。覚えといてね。あのおじいちゃん90歳超えてるそうよ。」と言われ、「えーっ!90歳?めっちゃ元気!ちゃんと歩いて店に入って来られましたよね。すごい!」と驚いたのを今でも覚えています。
そんな元気なおじいちゃんですが、最近は荷車を引いて歩いておられ、“足腰が少し弱くなられたのだなぁ”と心配していました。無表情で無口なおじいちゃんでしたが、たまにシワくちゃな顔をクシャッとして笑う顔が、なんとも可愛らしい食欲旺盛でした。
ご案内をしてお茶を出す時に、「おじいちゃんの分です。」と言って一人分多く出しました。ご家族が目を潤ませながら「ありがとう。」と言っておられました。注文の時、息子さんが「おじいちゃん、いつも『寿司生そば御膳』ばっかり食べてたよなぁ・・・。じゃあ今日は僕これ食べようっ!」と声を震わせながら言われました。それを見ていた私も、おじいちゃんを思い出して目に涙がいっぱいになり、オーダーを繰り返す声が震えました。
オーダーを復唱し終えると「あんなに元気だったのに信じられない・・・。」と言って私は泣きそうになりました。そんな私を見ていた御家族の方が「おじいちゃんは本当にさざん亭に来るのが楽しみでねぇ。どこに食べに行く?って聞いたら、必ずさざん亭がいいって言うの。」と言われました。それを聞いて益々涙が溢れそうになり「明日はお葬式だというのに、わざわざ、さざん亭に来てくれてありがとうございます。」と半べそを隠すように一礼してその場を離れました。
店長の許可をとり「食後にサービスでコーヒーをお持ちします。」と言うと「そう?じゃあ、コーヒーいただこうかしら。おじいちゃんのおかげでコーヒーサービスしてもらえた(笑)」と喜んでおられました。コーヒーも一人前多く持っていくと「みてみて、おじいちゃんの分もあるよ。」とおばさまが喜んでおられました。「あのう、ところでおじいちゃんはいくつだったのですか?」と聞くと「97歳よ。お母さんは91歳まで生きたの。100歳までがんばろうねって言ってたんだけどね。」と言われました。「97歳?!えーっ!すごい!90歳は超えていると知っていましたが97歳とは!すごく元気なおじいちゃんでしたね!」年齢を聞いてびっくりしました。
ここ、さざん亭柳井店はK様ご家族にとっておじいちゃんを思い出す空間であり、おじいちゃんとの思い出の場所なのです。“ご家族にとってそんな大切な店になれたことが、従業員としてとても幸せな事だなぁ”と心から思いました。
Kおじいちゃん どうか安らかにお眠りください。